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【第16回 コラム】 サロンを移ろうと思う前に知っておくべきこと

 

「せっかく新卒採用し、手塩に掛けて育てたスタッフが辞めていく。

本人の将来なので、こちら側が責めることはできないが、

なんとかならないかと悩んでいる」

 

このような転職に伴う本人と会社間の問題は、はるか前からあった。というよりか

業界に関わらず、こういった問題は常につきまとう。

 

しかしながら、経営者としては、できるだけ会社に在籍し続けてほしいところである。

では、どのようにしてスタッフを留める可能性を高めることができるのだろう。

 

私のアイディアは、

 

「美容室の構造を説明したうえで、本人のキャリアプランをたずねる」ことである。

 

特に、「あのサロンの方が待遇良さそう」「給与が高そう」と思って転職を考えたり、

引き抜かれようと思っているスタッフがいた場合には、まずはきちんと説明した方が

よいであろう。

 

1、固定給25万円+歩合5% (例)月給30万円/月売上1,000,000円 (正社員)

2、完全歩合 50% (例)月収50万円/月売上1,000,000円 (業務委託)

3、完全歩合 80% (例)月収80万円/月売上1,000,000円 (個人事業主)

 

上記のような3つのサロンで比較すると、同じ売上であれば「1」よりも

「2」、「2」よりも「3」の方が高収入で良さそうに見える。

だから、隣の芝生の方が青く見える。

 

だが1、2、3、の事実は、

 

1、客単価5,000円+店販1,500円=6,500円。1日7名接客。月8日休み。

 毎日20時30分帰宅。

 アシスタントもおり休憩もとれる。固定客もついており、

 集客も顧客管理も会社がすべておこなってくれる。

 社会保険も加入しており、有給休暇もとれる。面倒な確定申告も必要ない。

 

2、客単価5,000円。1日7名接客。月3日休み。毎日23時帰宅。

 アシスタントはいなく、施術はすべて1人でおこなう。新規集客の一部は会社が

 負担してくれるが自分でも呼び込み活動をしなければならない。

 月の顧客200名のうち、100名は会社の広告による新規客だが、

 100名は自分でお客様を獲得、リピートしなければならない。

 社会保険は加入していないので、自身で保険に入る。有給もない。

 確定申告もしなければならず、月収から税金が引かれてしまう。

 

3、客単価5,000円。1日7名接客。月3日休み。毎日23時帰宅。

 集客は誰もしてくれないため、自分で毎月200名の顧客を管理し、

 新規客も自分で獲得しなければならない。

 チラシだけでなく、薬剤も自分で準備する。

 月3日の休みも、呼び込み活動や仕事の準備をしなければならない。

 社会保険は加入していないので、自身で保険に入る。有給もない。

 確定申告もしなければならず、月収から税金が引かれてしまう。

 

このような話をしたうえで「あなたはどうしますか?」とスタッフに聞いてみるとよい。

 

あるいは「あなたはこの客単価をお客様からいただけますか?」

「あなたは顧客を毎月呼んでこられますか、リピートできますか?」

「あなたは自分で保険に加入して、確定申告できますか?」

「あなたは休みが少なくても平気ですか?」

「あなたは…」と。

 

私は1、2、3、の働き方のどれが良い悪いということではなく、どれを選んでも

よいと思っている。それが自分の選んだ人生なのだから。

 

だが、

 

・実態を知らずに

・キャリアビジョンを描かないままに

・乏しい情報や、勧誘だけを頼りに

・別のサロンに移る

 

のは大いに反対である。

 

このような業界や美容室、美容師の実態を伝えてあげることも、スタッフを救うための

経営者や会社側の役目なのかもしれない。

 

もし、会社側で説明しても響かなかったりするのであれば、第三者の私が喜んで

説明しに行く。

 

ひとりでも多くの美容師に幸せなキャリアを築いてほしいと思っている。

 

美容師は転職を考えるときに

 

・現在の顧客数/客単価

・将来の顧客数/客単価(目標)

・転職先の支援(集客支援/材料支援/顧客管理/在庫管理 etc)

・休日や就業時間(産休育休など含む)

・社会保険

・コスト(仕事以外の面倒なこと/例:自分で確定申告しなければならない etc)

・リスク(予測し得る不利益/例:人間関係によるストレス、会社方針とのギャップ etc)

 

キャリアプランやワーク・ライフバランスを考慮したうえで、最低でも上記は

検討した方がよい。

 

「ただなんとなく」や「今が良ければ」で転職するのはあまりに危険であることを

知ってほしい。

 

育成型サロンの早期離職問題は、業界にとって重要な問題ともいえる。

 

「多くの投資をして、手塩に掛けて育てたスタッフがスタイリストデビューした

途端に辞めていくのなら、もう新卒生を採用するのを辞めてしまおうかな」という

言葉をこぼす経営者・幹部の方ともお会いする。

 

とても胸が苦しくなる。

 

新卒採用をしないサロンが増えていったら、多くのサロンが教育を放棄してしまったら、

学生たちはどうなってしまうのだろう、美容業界はどうなってしまうのだろう。

日本の美容師のスキルをどうなってしまうのだろう。

学生や若手美容師には、正しい情報と知識を身につけてほしいと願う。

 

 

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