前回のコラム「ピンチをチャンスに変えるために」の中で、危機を好機に変えるためには
4つの技術がある旨を紹介した。その中でも「現場優先の意思決定」の重要性について、
今回は触れていきたい。
日本は「王と家来」「将軍と武士」「上官と自衛隊」「上司と部下」「先輩と後輩」と
これまで常に上下関係、主従関係、がつきまとっていた。読者の皆さんもこれまで
「上の意見は絶対」として命令されたり、仕事を任されたりしたことは一度くらい
経験があるだろう。企業でいうと、代表や役職者などから方針、方策などを落とし込み、
様々な指示命令を出し、従業員が業務に従事することをトップダウン経営という。
トップダウン経営を行っているサロンも未だにあるだろう。
「会社から『今月はヘッドスパキャンペーンをする、とにかく売りなさい!』
という指示を受けて、私はスパの提供を優先して頑張ります!」
「店長から『この商品を販売強化する。とにかくお客様にそれを販売しなさい』
といわれています!」
上記の話が決して悪いわけではない。
短期的に目標設定をおこない、組織としての達成に向けて、従業員に指示命令することは、
ときに必要な場合もある。実際、私自身もマネジメントをする立場として
「今はこのサービスを優先順位高くして販売する」とメンバーに伝えることもある。
トップダウン経営で利益が上がり、従業員が豊かになっているなら、
それでよいのかもしれない。しかし、本当にトップダウン経営を
この先も続けることで、組織は発展し、個人は豊かになっていくのか。
そして、お客様は満足してくれるのだろうか。
「指揮系統がトップダウンの組織は、必然的に状況の変化に機敏に対応できなくなり、
『瀧本哲史著書・武器としての交渉思考/ 星海社新書19』
誤った方向に向かったとしても引き返せなくなるのです。」
瀧本哲史さんも語っているように、
(1)トップが判断してからでは遅い
(2)トップの判断が間違っている
そのようなことは往々にしてある。
(1)については組織が大きければ大きいほど遅くなってしまう。
①「問題の事象が発生」→②「現場がトップに報告」→③「トップが解決検討」→
④ 「トップが解決策決定」→⑤「トップが現場に伝達」→⑥「現場が対応」→
⑦ 「問題解決 or 問題未解決」※未解決の場合、再度②に戻る
最低でも7の工程を持って問題解決になる。
そこで問題解決しなければ、13以上の工程がかかる。
①「問題の事象が発生」→②「現場で解決策を検討決定」→③「現場が対応」→
④ 「問題解決 or 未解決」 ※未解決の場合、再度②に戻る
上記の場合、最低4の工程を持って問題解決し、そこで問題解決しなくても
7つの工程で問題解決できる。つまり、トップダウンするよりも半分のスピードで
問題解決できる可能性があるのである。
重要なのは「現場で解決策を検討決定」することができるかどうかである。
ここは現場の能力に大きくゆだねられる。トップからすると
「現場が未熟で判断決定させるのが怖い」という意見もあるかもしれない。
しかしながら、一方で
・現場の方がトップよりも、リアルな情報を知っている
・現場の方がトップよりも、現場目線の解決策を検討することができる
・現場の方がトップよりも、大きな成長機会を得ることができる
こういった良い点があることも、着目すべきである。
こればかりは各サロンによって現場で判断させるかトップが判断するか、
方針やルールを決めても良いかもしれない。例えばサロンの店長でいうと、
・クライアントの安全や損失に大きく関わる問題は、店長が判断
(ただし、生命の危機など、緊急重要性がある場合は現場判断)
・売上損失に大きく関わる問題は、店長が判断
・売上増加に大きく関わる企画決定は、店長が判断
・従業員の将来に大きく関わる問題は、店長が判断
・サロンの将来に大きく関わる問題は、店長が判断
このような、「店長が判断すること」が分かりやすければ、
あとは現場の意思決定にゆだねることも可能になるかもしれない。
(2)のトップの判断が間違っている
これはあらゆる場面で、トップが心に留めておくべきことであろう。
私もマネジメントする立場としながらも、度々自分が判断したことが間違っており
痛い目を見ている。先日も新しい商品の値決めをして販売したのだが、一部の現場意見から
「高すぎるかもしれない」という意見が出た。しかし、そのまま販売したのだが、
思うように売れなった。どんなに事前に自分で調べたり「これで大丈夫」だと思っても、
現場の判断が正しいときもある。
組織として重要となる方向性や方針、戦略などはトップの判断が必要になるかも
しれないが、もっと現場にゆだねてもよいだろう。
withコロナの時代になり、更に現場の判断はより求められている。
先日、都内に店舗展開しているサロンのオーナーに訪問したのだが、
「店舗によって昨年対比がバラバラ。コロナクラスターの発生でメディアに
取り上げられたエリアは昨年対比でとても悪いが、そこから少し離れたエリアは
昨年対比でそこまで影響がない。エリアごと、店舗ごとに戦略を変えないと
いけない。これまでのトップダウンでは間違えたり上手くいかないことは
分かっている。現場中心に意思決定してもらっている」と話していた。
トップが“絶対正しい”などということは、もうあり得ないのである。
李在鎔体制、脱トップダウン 部門長に権限委譲進める サムスン継承(上)
日本経済新聞 電子版 2020年10月26日 22:05 (2020年10月27日 6:00 更新)
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO65481950W0A021C2FFE000?s=5
『韓国サムスン電子の中興の祖、李健熙(イ・ゴンヒ)会長が死去し、
長男の李在鎔(イ・ジェヨン)氏が名実ともに巨大財閥のトップとなる。
在鎔氏は「優秀な人材が私より重要な地位でサムスンの事業を導く仕組みを築く」
と明言し、創業家以外への分権を進める。その体制でも、強みだった
素早い経営判断ができるのか。サムスンの針路を探る。』
脱トップダウンは日本に限らず世界各地の企業でも進んでいる。
しかし、記事にも記載があるとおり、現場の声に耳を傾けることで起きる迷いや、リスクもある。
組織としてどのような経営方法、運営方法が最善かは難しいところである。しかしながら、
ひとつ言えるのは、『トップダウンしかしない経営や運営は終わった』ということである。
どうか各サロン、組織運営について模索、改善を繰り返し、Withコロナ時代を
戦ってほしい。
2020年11月10日